レッツ・スタディー!演劇編 眞鍋杏樹さん①
NMB48メンバーが舞台芸術の魅力について紹介するコラム「NMB48のレッツ・スタディー!」演劇編。今回は眞鍋杏樹さん(22)が登場します。
2020年にグループに加入。中学生までは新体操に打ち込み、五輪出場も視野に入るほどだったといいますが、あることをきっかけに「舞台に立つ」という新しい夢をみつけたそうです。
新体操を小2から中3まで 五輪をめざしたことも…
まなべ・あんじゅ 2002年、兵庫県生まれ。NMB48の7期生。「痴人の愛・現代篇 君といつまでも 2022初夏版」(22年)、「ナビゲーション」(23年)、「パリピ孔明」(24年)など舞台作品にも多く出演している。
アイドルをしながら、役者として舞台にも立っています。アイドルになる前はひたすら新体操に打ち込んできました。団体で全国大会優勝を果たしたこともあります。「えっ、そんな経歴のアイドル(役者)いるの?」と驚かれたでしょうか。確かに、珍しいかも知れません。
親から聞いたところでは、私が初めて舞台を見たのは2歳のとき。普段じっとしていない私が食い入るように見つめているので、母は「もしかしたら好きなのかな」と思ったそうです。
クラシック、ジャズ、サンバ。音楽好きな両親の影響で、小さな頃から身の回りには様々なジャンルの曲が流れていました。ミュージカルにオペラ、サーカスやバレエなどの鑑賞にも、ときどき連れていってもらっていました。
新体操に出会ったのは小2の頃です。身体を自在に操り、音楽と調和する美しさに魅了されました。幼少期から音楽にたくさん触れていたことが影響しているのかなと今では思います。中3まで、ひたすら練習の日々でした。夢は五輪出場でした。あと一歩かもと思える瞬間もありましたが、どこまでも厳しい競技の世界。夢をかなえることなく選手生活を終えました。
ある高校のオープンスクールで、衝撃の出会い
ちょっと燃え尽きたような気持ちもあったときに、ある高校のオープンスクールに出かけました。その高校には舞台芸術コースがあり、生徒たちが演劇を実践する授業に取り組んでいました。そこに私も参加させてもらい、歌ったり踊ったり。感情を自分の思うままに表現できて「なんて楽しいんだ!」と感じました。
私自身、舞台鑑賞は好きでしたが、やってみたいとまで思ったことはなかったんです。規定の演技の中で100点を出すことをめざしてきた私にとって、「もっと自由に!」といわれるのは新鮮な体験でした。何か不思議な力に導かれるようにして、その高校に進みました。
でも、その時点では「将来、この仕事をしたい」という明確な目標まではありませんでした。そんな私の魂を揺さぶったのが、高1のときに観劇した宝塚歌劇団宙(そら)組「白鷺(しらさぎ)の城」「異人たちのルネサンス」です。
この公演を見たときに本当にびっくりして……。気付いたら泣いたり笑ったり、自分が物語の一登場人物として舞台上にいるような感覚を味わいました。壮大なセット、圧倒的な歌声と表現力。そして華やかな演技に心が震えました。
それまでなら「すごい! きれい!」で終わるところです。でも、この日だけはもう一つの思いが突き上げてきました。それは「悔しい!」という感情です。みんな、まぶしすぎて悔しい。この舞台上に私がいないのが悔しい。
身の程知らずな、と我ながら思います。でも、ともかくそれが私の正直な気持ちでした。
舞台に立ちたい!気付いた強烈な情動 そしてNMB48へ
見るだけではとうてい満足できない。「私も舞台に立ちたい!」という強烈な情動が私の中に眠っていたことに気付かされた瞬間でした。
高3のときにNMB48のオーディションを受けて加入しました。なぜアイドル?と思われたかも知れません。でも私は演技だけをしたいというより、歌ったり踊ったり、「舞台の上で人を魅了する」ことがしたかったのです。アイドルは幅広く、様々な場に立てる仕事。夢への第一歩として最適だと思いました。
同じ高校の教室で、同じことを考えていた同級生がいました。同時期にNMB48に加入することになる佐月愛果(昨年NMB48を卒業、現在は舞台俳優)です。彼女は子役出身で情熱的な性格。演技経験が豊富で、舞台では特に輝いて見えました。NMB48で仲間となり、お互いに「えーっ!」となりましたが、なぜか「そうか、愛果もね……」とうれしくなったのを覚えています。
NMB48に入ってから、役者として何度も舞台に立たせてもらいました。初めての大役は「痴人の愛・現代篇(へん) 君といつまでも 2022初夏版」です。家出少女のナオミという、複雑で危なっかしいキャラクターを演じました。愛を求めながらも、それを踏みにじるような行動をとってしまう、迷いの中で生きる少女でした。
23年の舞台「ナビゲーション」では、強がった態度をみせながらも心の中にどこかもろさを抱えた「汐里(しおり)」という女性を演じました。
私は「憑依(ひょうい)」型の役者かも知れません。役になりきり、その感情を自分のものとしたい。心の奥深くにある気持ちを掘り起こし、自分の体を通じて表現したい――。そんな思いが強いのです。全力で役に入り込むので、幕が下りた瞬間にどっと疲れます。そして演技をしている間の記憶はすっぽり抜け落ちています。「別の誰かの人生を生きる」。大変ですが、これこそが役者として生きる醍醐(だいご)味だと感じています。
「空間を支配する」ことの難しさ
アイドルとしても役者としても、私がめざしていることの一つが「空間を支配する力」を身につけることです。満場の注目をひきつけ、その場の空気を支配する。そんな力のことです。
例えば、演技やパフォーマンス。前の方に座っているお客さんの注目だけを集めても、空間を支配したことにはなりません。客席の後方にまで自分の存在感を届ける必要があります。
そのために大事なのは大きく踊ること、大きく演技することです。同時に、表現の細部にもこだわること。指先にまで神経を集中させ、表情や動きの一つひとつに丁寧な意味づけをすることです。その両方を実現できて、初めて立体的な空間を自分のものにできると思うんです。
それと、立ち姿の美しさ。存在感ある役者さんは、ただ立っているだけで満場の視線をひきつけます。背筋が伸び、静止画のように微動だにしない。時間が一瞬止まったような錯覚すら客席に与えるのです。そして、そこから一気に激しいダンスや演技に移り、「静と動」のコントラストで客席をひっかき回す――。
長年、新体操をしていた私は、舞台や演技をどこか新体操の文脈で見ているところがあるかも知れません。でも、それは私の弱みではなく強みなんだと最近になって思えるようになりました。新体操で学んだことの上に、私自身の自由な感覚と表現をのせていく。そんな、私にしかできない役と舞台があるはずだと。
そんな思いにたどり着くまで、時間はかかりました。春4月。「夢ってどうしたら見つかるのかな」「私には何が向いているかな」とか、迷っている人も多いと思います。私のささやかな経験が、夢を探す誰かのヒントになれば幸せです。
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